【海外記事紹介】学生作の化学工学オープン・テキストブック

雑談

海外の化学工学科では、学生が授業の一環でオープン・テキストブックを作る試みをしているところもある(あった?)みたいです。ブログを書くことによって学ぼうとしている私にとっても興味ある話題です。これに関して、10年以上前の古い記事ですが、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの記事を発見したので、翻訳してご紹介します。

学生が作ったオープン・テキストブック「化学プロセスのダイナミクスと制御」

この文章は、Jane Parkによる2008/12/4の記事『The Student-engineered Open Textbook: Chemical Process Dynamics and Controls』の日本語訳です。Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0)に基づき、翻訳の許諾が得られています。

学生は、教室で教わったことをただ吸収するだけではなく、実践することによって学ぶことがよく知られています。一方で、誰もが情報を「手に入れる」ことができることも知られています。インターネットは情報で溢れており、いくつかのキーワードを入力して検索ボタンをクリックするだけで情報を手に入れられます。正式な教育、つまり教室での学びは、もはや、教育において認知されている知識の獲得 vs. 知識の実践という分断の片面だけではありえないのです。

オープン・エデュケーションでは、情報が豊富にあること、そして、その情報を整理し、解釈し、意味あるものにするためには人の力が必要があることを認めています。これは、GoogleやWikipediaで育ったネット世代に対し、正式な高等教育が今もなお提供している価値のひとつです。データの取捨選択は、専門家やそれに匹敵する者、また学生の責務となり、その結果として、高品質な教育資源が世界で利用できるのです。

ミシガン大学の化学工学科ではこの、知識の獲得と実践の統合というアイデアを採用し、実行しています。彼らはwiki形式(訳注:現在wiki版は残っていないようである。下記リンクはPDF版)のオープン・テキストブックである「Chemical Process Dynamics and Controls」への寄稿を学生に要求することで、知識の実践を授業のカリキュラムに落とし込みました。2006年から、化学工学科の4年生が、前年の先輩の作業を基にこの教材を開発しています。その結果、包括的で動的な教科書にWEB上で無料でアクセスできるようになりました。この教科書は高品質であり、かつ、CC BYライセンス(訳注:原作者のクレジットを表示することを主な条件とし、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可される最も自由度の高いクリエイティブ・コモンズ・ライセンス)がされています。wikiのテキストを直接編集するにはこの授業の受講生である必要がありますが、それ以外の人が自分の用途のためにコピーしたり一部を取り出したりすることを妨げるものは何もありませんし、再出版して書籍として安価に配布することすら可能です。

Peter Woolf(化学工学と医工学の助教)がLeeann Fuの協力を得て考案したこの教科書作成システムは、決して行き当たりばったりではありません。毎週、特定のトピックの 「専門家 」となる学生チームが選ばれます。学生たちは、そのテーマについて調べて発表し、関連する文章や図をwikiに追加します。wikiの内容は「編集者として、文章の大まかな筋道を選び、参考文献を提案する」役割を果たす「教員と大学院生インストラクター(GSI)」によってさらに吟味されます。また、GSIは著作権の問題も確認しており、学生にはパブリックドメインの資料を再利用することが推奨されています。

『他の科目とは対称的に、学生たちは割り当てられた箇所のどの教材が最も役に立つかを選び、プレゼンテーションの方法を決定するなど、積極的に教育に参加しています。そのうえ、学生たちは例題を作成し、授業中のポスターセッションで発表することで、他の学生がその教材を身につけるのを助けています。』

これに加えて、講義もビデオ形式とPowerPointのプレゼンテーション形式でwiki上で利用可能であり、教科書と同じくCC BYのライセンスです。CC BYは、原作者のクレジットを表示するだけでいいので、教材に最適なライセンスです。自由にコピー、改変、リミックス、再配布できることは、教育の発展のために非常に重要です。

実際に読んでみる

実際にこちらのオープンテキストブックを読んでみました。下のリンクから見られます。

Chemical Process Dynamics and Controls - Open Textbook Library
Process controls is a mixture between the statistics and engineering discipline that deals with the mechanism, architectures, and algorithms for controlling a p...

なんと全1400ページもある超大作で、目次が30ページもあります。正直ファイルサイズが大きすぎて動作が重くなってしまうのは欠点ですね……。大まかな内容は下記の通り。

  • Part I: Process Control Introduction
  • Part II: Chemical Process Controls
  • Part III: Statistical Analysis for Chemical Process Control

制御工学の基礎から応用まで幅広く載っているみたいです(全然中身読めていませんが)。制御工学と統計学のつながりがよくわかっておりませんので、ご存じの方はぜひご教示ください。

イントロダクションの項にボパールの事故やスリーマイル島原発事故について記載があるのが印象的でした。ミシガン大では大学生の時点できちんと習っているのですね。

参考:ボパール化学工場事故

ボパール 最悪の事故
先日、インドにあるLGポリマーズという会社でスチレンタンクからスチレンが漏れた事故が起きました。ガス漏れの影響は数kmにもわたり、数多くの方が病院へ運ばれたり亡くなった方もいます。インドの化学工場の事故ということでボパールの事故を思い出したので記事にしてみます。この事故はプロセス産業史上最悪と言われています。

補足情報

ミシガン大のWEBサイト

ミシガン大のサイトに「VISUAL ENCYCLOPEDIA OF CHEMICAL ENGINEERING EQUIPMENT」というページもありました。詳細は不明ですが、寄稿者の名前がたくさん並んでいたので、こちらも学生が参加しているプロジェクトかもしれません。下のリンクです。

Visual Encyclopedia of Chemical Engineering

メニューを見てみると、下記のような内容のようです。

  • Energy Transfer
  • Flowmeters
  • Materials Handling
  • Polymer Processing
  • Process Parameters
  • Reactors
  • Separations Chemical
  • Separations Mechanical
  • Transport Storage

Visualというだけあって、わかりやすい図解や写真、Youtube動画の紹介が主のようです。たとえば、こちらのページの中程にある蒸留塔ダウンカマーの説明写真、塔の本体がなくシーブトレイとダウンカマーだけになっている写真があり、蒸留塔の内部構造を説明するときにちょうど欲しい感じの写真が載っている!と感じました。

アメリカは教科書が高いらしい?

自分で調査したわけではありませんが、こんな記事を発見しました。

なんでこんなに高いのテキストブック!
私がウン十年前、大学院に留学したころ、日本にはないあの分厚いテキストブックを小脇に抱えキャンパスを歩く学生の姿…

2016年の情報ですが、1冊$300する教科書もあるとのこと。日本の教科書でそこまで高いものは無いような気がしますが…生物・医療系などでオールカラーだともしかすると高いんですかね?教科書が高いと、オープン・テキストブックの試みも推進しやすいのかもしれません。

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