化学工場では多かれ少なかれ、液体や気体を取り扱うので、対流伝熱の計算が必要になることがあります。
今回は、配管の放熱を例に、対流伝熱を含む伝熱計算の方法を解説します。
最後に表計算ソフトを用いた実際の計算例も載せますので、参考になれば幸いです。
計算の全体像
まずは計算の全体像を確認しましょう。
- 何が知りたいのか?(計算の目的)
- 総括伝熱係数の算出
- 配管内…対流伝熱→管内境膜伝熱係数
- 配管壁…伝導伝熱→熱伝導度と配管壁厚さ
- 配管外(外気)…対流伝熱→管外境膜伝熱係数
- 上記3つから総括伝熱係数を算出
- 計算
- 熱損失の大きさを計算
- 表計算ソフトを用いて、長さ方向の温度分布を計算
計算の目的、前提を確認する
今回は「熱水(100℃)が流れる配管の保温をメンテナンスのため一部撤去したので、外気(20℃)によって自然に放熱して冷える。熱損失の大きさと、何℃まで冷えるか知りたい」という設定にします。
配管材質は炭素鋼、サイズは4B、熱水流量は20t/h、保温を撤去した長さは10m、としておきます。
計算によって、
- 熱損失の大きさ [kW]
- 長さ方向の温度分布
を求めていきます。
総括伝熱係数を算出する
今回の場合、熱は配管内の熱水から外気に向かって移動します。この熱の移動には
- 熱水から配管の内壁までの伝熱 対流伝熱
- 配管の内壁から外表面までの伝熱 伝導伝熱
- 配管の外表面から外気への伝熱 対流伝熱
の3段階があります。これらのすべてをひっくるめた伝熱係数が総括伝熱係数です。
詳細はここでは割愛します。下記にわかりやすい外部サイトを紹介します。
総括伝熱係数を用いて熱の移動量は下式で表現できます。
$$Q = U \times A \times \Delta T$$
- U:総括伝熱係数 [W/m2.K]
- A:伝熱面積 [m2]
- ΔT:温度差 [K] …今回の場合、熱水と外気の温度差
また、総括伝熱係数は下式で求められます。
$$\frac{1}{U} = \frac{1}{h_{i}} + \frac{t}{k} + \frac{1}{h_{o}}$$
- hi:管内境膜伝熱係数 [W/m2.K]
- t:配管厚さ [m]
- k:配管の熱伝導度 [W/m.K]
- ho:管外境膜伝熱係数 [W/m2.K]
それでは、各段階の伝熱係数を求めていきましょう。
管内境膜伝熱係数
配管内を水が流れている状況なので、強制対流の境膜伝熱係数を求めます。
熱伝達係数はヌッセルト数から計算します。ヌッセルト数とは下式で表現される、対流伝熱と伝導伝熱の比を表す無次元数です。
$$Nu = \frac{h \times D}{\lambda}$$
- Nu:ヌッセルト数
- h:熱伝達係数 [W/m2.K]
- D:代表長さ [m] …今回は配管の内径
- λ:流体の熱伝導度 [W/m.K]
強制対流におけるヌッセルト数は、レイノルズ数とプラントル数の関数として実験式が多数提案されており、状況に合う式を選んで計算に使用することになります。実験式は、化工便覧や、移動現象論・伝熱工学の教科書などに載っています。
ここでは実験式を紹介するのは避け、計算の流れのみ示すことにします。実験式の例は下記の外部リンクをご参照ください。

粘度、密度、熱伝導度、比熱などの物性値を便覧などから収集し、レイノルズ数とプラントル数を算出し、その値を使ってヌッセルト数を求め、境膜伝熱係数hiを求める、という流れです。

hi = 3725 W/m2.K となりました。
管壁の伝導伝熱
伝導伝熱に関わる項 t/k は、材料固有の物性値である熱伝導度(k)と、厚さ(t)から求められます。
今回は炭素鋼の4B配管なので、熱伝導度は53 W/m.K、厚さは4.5mmです。
k/t = 11778 W/m2.K となりました。(他の項と単位を揃えるため、t/kの逆数を計算しました。)
管外境膜熱伝達係数
管外境膜熱伝達係数に関しても、ヌッセルト数から熱伝達係数を求める点は管内境膜伝熱係数と同様です。
今回は、熱い配管から外気への伝熱を扱いますので、ヌッセルト数は、水平もしくは垂直な円筒(=配管)からの自然対流に関する式を探すことになります。(実際は風もあるのでややこしいのですが…)
自然対流の場合、ヌッセルト数はグラスホフ数とプラントル数の関数で表されます。
自然対流については分量が多くなりそうなので別の機会に書くこととして、、今回は下記の記事を参考にho = 20 W/m2.K としたいと思います。

総括伝熱係数を求める
以上より
- hi = 3725 W/m2.K
- k/t = 11778 W/m2.K
- ho = 20 W/m2.K
と求まりましたので、上述の式より総括伝熱係数を算出すると、U = 19.9 W/m2.K となりました。
ここで注目していただきたいのが、Uがhoに非常に近い値である点です。
$$\frac{1}{U} = \frac{1}{h_{i}} + \frac{t}{k} + \frac{1}{h_{o}}$$
この式の形から、総括伝熱係数に最も影響を及ぼすのは、hi、t/k、hoのうち最も小さいものだということがわかります。熱が伝わりづらい部分がネックとなって、全体としての伝熱が決まる、ということですね。
金属の伝導伝熱や強制対流伝熱は熱伝達係数が大きく、自然対流では小さいなど、ある程度予測は可能ですので、それぞれの熱伝達係数の中で最も小さそうなものに注力するのが良いやり方かも知れません。(=熱伝達係数が大きいものは総括伝熱係数にあまり影響を及ぼさないので)
熱損失と温度分布の計算
熱損失の計算
熱の移動量は下式で表されます。
$$Q = U \times A \times \Delta T$$
- U:総括伝熱係数 [W/m2.K]
- A:伝熱面積 [m2]
- ΔT:温度差 [K] …今回の場合、熱水と外気の温度差
伝熱面積は管内基準、管外基準とありますが、ここでは間をとって管内外の平均の伝熱面積を取りました。

熱損失は5.5kWとなりました。蒸気単価などを用いれば金額に換算することもできますね。
表計算ソフトを用いた温度分布の計算
簡易的ですが、保温を取り外した配管10mを1mずつ区切って温度を計算してみました。
計算式は下図をご参照ください。
各区間(長さ1m)における放熱量を流量と比熱で割ってその区間における温度低下を求め、1つ前の区間の温度から引くことで、その区間の温度としています。

10m地点における温度低下と流量、比熱から熱損失を求め、前項で求めた熱損失の値と整合性が取れているか確認します。
4.215 * (100-99.77) * (20*1000/3600) = 5.4 kW
誤差はありますが、前項とだいたい同じくらいの値になりました。
まとめ
- Q = U * A * ΔT
- 総括伝熱係数Uは、管内外の境膜熱伝達係数と、管壁の厚さ・熱伝導度から求める
- Uは熱が一番伝わりづらい部分の熱伝達係数に大きく影響される
- 境膜熱伝達係数は、ヌッセルト数から求める
- 強制対流のヌッセルト数は、レイノルズ数とプラントル数の関数
- 自然対流のヌッセルト数は、グラスホフ数とプラントル数の関数
- ヌッセルト数の実験式は書籍で調べる
参考になれば幸いです。ご安全に!
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